ASM-P

性欲

「性欲もなくてエルフはどうやって繁殖するんだ?」
どんな話の流れでそうなったかは覚えていないが、素朴な知的好奇心からアイゼンがフリーレンに尋ねた。昼をずいぶんと過ぎた酒場には僕たちパーティしかおらず、人目を気にする必要はなかった。何度も聞かれたことのある質問なのか、フリーレンは特に驚きも照れもせずに淡々と答える。

「肉体的繋がりがなくても、居心地のいい者同士が集まって、家族や恋人と称するのはよくあることなんだ。例えば今このパーティも、エルフ的には家族とも言えなくはない」

そう言いながら、僕のデザートの上に乗ったさくらんぼをスプーンで奪っていった。
「そうか、家族だったら仕方ない。その最後に食べようと思っていたさくらんぼは君のものだ」
頷く僕にあきれ顔の生臭坊主とは目を合わせない。

「そうやって暮らしてると、自分の血の繋がる後継者が欲しくなったりするときもあって。その時に意図的に生殖行為をするって感じかな。あとは集落の人口が著しく減ってきた時とか」

なるほど、本当にエルフというものは人とは違った感覚を持っているらしい。

「ずいぶん淡泊なんですね」と言いながらも、フリーレンの普段の様子からも驚く事も無いという感じで頷くハイター。

「まあ意欲はあっても身体が反応しないとか多いらしいから、その時は性欲を増進する魔法とか薬とか」

そう続けるフリーレン。しかしこの先の話を聞くと、とても気まずい思いをするのは僕ではないかという予感から

「もういいからっ!わかった。わかったからこの話やめよう!」

そう、僕は話を強制的に切り上げることにした。



フリーレンは肩で息をしながら、暑苦しいとばかりに足元に丸まった毛布をさらに先へ蹴飛ばす。
その行動に色気は無いが、真っ白な肌は蒸気し赤らんで、たった今僕自身を引き抜いた秘所からは泡立ち濁った体液を、とろりと滴らせている。こちらも息を整えながら、その扇情的な彼女を見下ろし、丸い額に張り付いた髪を払ってやる。

「今日もぐっすり寝られそう」と、寝付きの良くなる為の軽い運動をしたとばかりの満足げな笑みをしたあと、シーツの温まっていない壁際にコロリと転がる。今さっきまであんなに僕を煽るように甘い声を漏らしていたというのに、終わってみるといつもあっさりしたものだ。
そんな彼女に苦笑しながら、ふと昔フリーレンに聞いた話を思い出す。
シーツに広がる銀の髪を、押しつぶしてしまわないように避けながら横に転がる。きっと今は火照った身体を冷ましているところで、腕を回そうものならば「あついよ」と振り払われると思い、やわらかい二の腕をつついて声を掛ける。

「エルフは性欲がないって言ってた話覚えてる?つまりフリーレンはいつも僕の欲に合わせてくれてるってことだよね。無理させてる…よね?」

確認しても仕方の無いことだとは思いつつ、本音が知りたくてつい聞いてしまった。あからさまに尻すぼみになる声量に情けなくなる。
彼女は何いってるんだ?という怪訝な顔で起き上がり、寝ている僕の頬を両手で挟む。キスをされる雰囲気ではなさそうだ。

「確かに私はエルフだから、自分からスケベなことしようとか滅多に思わないけど」

というフリーレンに「それって偶には思ってくれているってこと?詳しく!」と尋ねたい気持ちでいっぱいになるが
話の腰を折ってしまうと拗ねて大事な事を話してくれなくなると思い、ぐっと飲み込む。

「肩揉んだりお風呂にはいったら気持ちいいみたいに。性感帯に触れられれば普通に気持ちいいし。なによりしてる時のヒンメルの顔が……」

「顔が?」

「私の事が愛しくてたまらないって顔。見ると嬉しいし…。ふわふわする」

そういう彼女の顔はむずむずしたものを我慢するようで、とても愛らしい。言葉を選んで口ごもる。
きっと、僕を傷つけない言葉を選んでる、そんな顔。僕を見て、考えて。言葉を選んでいるのだ。

「嫌いじゃな……ううん、好き。だとおもう。もっと見たい」

そんな、顔をされては。言われては。たまらなくてぎゅっと抱きしめて、頬ずりをする。

「あ、今もしたよ」

そう笑う腕の中の愛しい彼女。

「大好きだよ、フリーレン」

そんな言葉じゃ全然足りないけど、愛しい思いは洪水みたいに溢れて。気の利いた言葉を探す余裕なんてない。
伝われ、伝われ、と思いを込めて。できる限り優しく包み込む。
そんな僕の胸に手をつき身体を起こし、顔見下ろしぷっと笑う。

「でも、ホントに眠いときは寝かせてね」と念押しされた。
そう本音を言う彼女はやはり愛しく可愛らしかった。
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